金融クレジット商品にCDS(Credit Default Swap)とNTD(Nth-to-Default Swap)というものがあります。本エントリーではこれらの商品性を解説していきたいと思います。
CDSの商品性
CDSは買い手が売り手にプレミアムを取引期間中に支払い続けます。ただし、もしCDSの参照体にクレジットイベントと呼ばれるものが生じたときには、プレミアムの支払いが終了し所定の金額を売り手から買い手に支払う商品です。この参照体は買い手と売り手とは別の企業や国等が指定されることが一般的です。
ここで問題になるのがクレジットイベント(CE:Credit Event)の定義です。これは契約書で定めることになりますが、大きく分けて下記の3つの定義があります。
- 破産
参照体が会社更生法や民事再生法等の適用申請をした時にクレジットイベントとみなす - 支払不履行
参照体の債務に不履行が発生したときにクレジットイベントとみなす - 債務条件の変更
参照体の債務の返済期限の延長や優先順位の変更等があったときにクレジットイベントとみなす
3.債務条件の変更はトリガー判定が難しい場合があるため採用されず、1.破産、2.支払不履行のどちらかが発生したときとする契約(2CEと呼ばれる)が多いです。
CDSはリスクの観点からみると「参照体のクレジットリスクの移転」という効果があります。クレジットイベントが発生したときに貰える金額をクレジットリスクを移転したい金額とすると、買い手からみるとクレジットイベントが発生してもその金額が保証されることになります。一方で、売り手からみるとその逆が言えるのでクレジットリスクを引き受けているということになるのです。
CDSのプライシング
CDSのプライシングについて基本的な考え方をみていきます。過去のエントリーでも述べましたが、金融商品のプライシングについての基本的な考えはDCF法です。

DCF法に適用するCFを求めていくのですが、デフォルトリスクがあるため期待値計算が必要となることに注意ください。
まず、通常時のCFがどのように表現されるか考えてみます。想定元本を\(N\)、想定元本に対するCDSプレミアムを\(c\)(これをCDSスプレッドという)、DiscountFactorを\(DF\)とすると下記の通り表すことができます。
$$c \cdot N \cdot DF$$
次に、クレジットイベント時のCFの表現を考えます。ここで重要になるのが回収率という概念です。例えばある参照体がクレジットイベントになった場合、この企業から債務を回収しますがクレジットイベントになったということは全額回収まではできない可能性が高いです。エクスポージャー額に対してこの回収できる金額がいくらかなのかを表すものとして回収率というものが使われます。ただし、回収率は実際にデフォルトをしないと観測できないので、推定が別途必要になります。
CDSの場合は想定元本がエクスポージャー額であり、クレジットイベント時に債務を回収できなかった部分をカバーするようなCFを発生するような商品なので、回収率を\(R\)とすると下記の通りクレジットイベント時のCFを表すことができます。
$$(1-R) \cdot N \cdot DF$$
あとはこれらのCFを参照体のデフォルト確率を使って期待値計算してやればDCF法によりCDSのPVが求まります。まず、CDSプレミアムの支払が\(0<t_1<…<t_n\)にあるとし、\(t_i\)までの累積生存確率を\(SP(t_i)\)とすると、下記の通りCDSのPVは表現することができます。
\begin{eqnarray}
CDS_{PV}&=&\sum_{i=1}^{n} c \cdot N \cdot DF(t_i) \cdot SP(t_i) \\
&-& \sum_{i=1}^{n} (1-R) \cdot N \cdot DF(t_i) \cdot (SP(t_i)-SP(t_{i-1}))
\end{eqnarray}
なお、\(SP(t_i)-SP(t_{i-1})\)は\(t_{i-1}\)から\(t_{i}\)までに参照体がデフォルトする確率を示しています。
上記式からわかる通り、このCDSという商品を組成する際に決めれるのは参照体と期間を除けばCDSスプレッド\(c\)のみです。このCDSスプレッドはデフォルト確率と回収率の市場予測により日々変動しています。すなわち、市場がどう参照体の信用力を見ているかを織り込んでいる指標といえます。このスプレッドからデフォルト確率を概算する方法も過去のエントリーで紹介していますのでそちらもご覧いただければと思います。

NTDの商品性
NTDは複数の参照体(バスケットと呼ばれる)の中でn個目のクレジットイベントが発生したときにCDSと同様の終了条件が付与されているものです。FTD(First-to-Default)やSTD(Secound-to-Default)のように何個目のデフォルトが起きた時なのかを決めて取引をします。
上記の図にSTDの例を挙げましたが、2個目の参照体がクレジットイベントになったときに終了する取引なので参照体Cのみクレジットイベントになっても終了しませんが、参照体Bと参照体Dのように2つクレジットイベントになったとき初めて清算されます。
NTDのプライシング
基本的なプライシングの考えはCDSと同様ですが、予め指定された\(x\)個の参照体のうち\(n\)個がデフォルトする確率を求めてCFの期待値計算をするという点が異なります。
ただし、FTDとそれ以上のデフォルト指定をする取引(Second-to-Default,Third-to-Default等)は異なるリスク構造を持つことに注意が必要です。
これはFTDは参照体間の相関が小さいほど清算される確率は低いですが、それ以上のデフォルト指定をする取引は参照体間の相関が大きいほど清算される確率が大きいからです。
直感的な方法でこれを理解してみましょう。FTDとSTDを考えることとし、簡単のため\(x=3\)で考えてみます。この時ある状態変数\(ω\)が\(ω \in X_i\)となったときに参照体\(i(1<=i<=3)\)がデフォルトしたとみなすこととします。
するとFTDのデフォルト条件は1社以上デフォルトが起きた時に清算する取引なので、ベン図を描くと下記の青の部分がその確率を求めるものになります。
図1
上記は相関が高い場合を図示しましたが、相関が低い場合は下記のような図になります。
図2
この2つを比較すると1社以上デフォルトする確率は、全事象Ωに対して青の部分が塗られている面積が大きい方が高いので図2の方がFTDの清算確率は高くなります。すなわち、参照体の間の相関が小さい方がFTDの清算確率は高いと結論付けられます。
一方で、STDは2社以上デフォルトした時に清算される確率なので、図1のように重なっている部分が2社、3社と同時にデフォルトする確率に該当するので図1の方がSTDの清算確率は高くなります。すなわち、参照体の間の相関が大きい方がSTDの清算確率は高いと結論付けられます。
まとめ
CDSとNTDの商品性を今回は説明しました。実務ではデフォルト確率を推定するためにモデルは高度なものを使われております。また別の機会にモデルの紹介はできればと思っております。
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