金融商品には株、債券、デリバティブ等様々な商品があります。これらについて「どのくらいの価格が妥当なのか」と「どういうリスクがあるのか」を知っていないと非常に危険かと思います。何故ならば、価格が妥当なのかどうなのかを知らなければ高い金額のものを買ってしまうことになりますし、リスクを知らなければ気づかないうちに大きな損失が生まれていたということにもなりかねないでしょう。つまり、金融商品を購入(投資)するうえでこの2つを知らないというのはブラックボックスに手を突っ込むようなものです。
今回は金融商品全般に共通する考え方である理論価格の求め方とリスクの関係を簡単な数式を用いて説明したいと思います。ただし、本エントリーでは数式で求まる理論価格のことを価格と略して書きますのでご理解いただければと思います。
価格のモデル化
結論から言うと、ほとんどどんな金融商品であっても価格はDCF法(Discounted Cash Flow Method)によって求まります。この方法を簡単な例を使って理解してみましょう。
1年後、2年後、3年後に100円がもらえる金融商品を考えてみます。この時の基本原理としては「等価値」となるように価格を決めます。なので真っ先に考えられる答えとしては、1年後、2年後、3年後の100円を全て足し合わせた300円が妥当な価格ではないかと考えられます。

何故ならば、今価格が300円ならばこの300円を払って商品を買っても3年間待てば300円貰えるので損益はプラスマイナスゼロ、すなわち等価値だといえるからです。しかし、今300円を払って商品を買うのと将来的に1年毎に100円ずつ貰うのとは同じ価値に感じられますでしょうか?少し違和感があるかと思います。実はこの違和感がディスカウントファクターというものによって調整されています。
ディスカウントファクターについて理解を深めてみましょう。例えば消費者金融で1年間1円借りようと思うと、1年後1円を返すだけではなく金利がとられます。これはどういうことかというと、今の1円は将来の1円+金利と等価値とみなして取引しているということです。すなわち、将来の1円の価値は今の1円の価値よりも高く、金利分が1年後の1円と現在の1円の価値の差であるといえます。
上記では現在の1円は将来の1円+金利の価値と等価と考えましたが、将来の1円は現在の何円に対応するかを考えるのがディスカウントファクターの考え方です。「将来の1円+金利」と「現在の1円」を1円+金利でそれぞれ割ると、将来の1円は現在の1/(1+金利)円となります。この1/(1+金利)がディスカウントファクターと呼ばれます。これを使えば将来の1円が現在の価値としていくらになるか表現できるのです。
以上でDCF法を説明する準備が整いました。DCF法とは、ある商品のキャッシュフローが
で発生するとし、ディスカウントファクターを
とすると価格
を下記のように与えるものです。
$$ P = \displaystyle\Sigma_{i=1}^{n}CF(t_i) \cdot DF(t_i) $$ |
ディスカウントファクターは1円当たりの
を現在の価値にしたものなので、キャッシュフロー
をかけることで
円を現在の価値にしたものを全期間足し合わせたもの、これが価格であるという式になります。この式が金融商品の価格決定の根幹になっています。
DCF法による各金融商品のプライシング
さて、DCF法が様々な金融商品の価格を求める式になっているといいましたが、CFの形とDFに何を適用するのか、という違いが商品ごとにあります。その例を今回は株、債券、デリバティブの3種類の商品を見て確認してみましょう。
①株のモデル
株から発生するCFは「配当」です。なので配当の支払が
(企業は永遠に続くこと【ゴーイング・コンサーン】を仮定しているので一般的には無限先までの期間)で発生するとし、ディスカウントファクターを
とすると価格
は下記のように書けます。
$$ P = \displaystyle\Sigma_{i=1}^{∞}D(t_i) \cdot DF(t_i) $$ |
ここである概念を導入します。「リスク商品の金利=リスクプレミアム+無リスク金利」というものです。これはどういう考えかというと、全くリスクのない商品(例えば国債等がよく考えられる商品)に適用される無リスク金利というものを考え、リスクのある商品の金利はこの無リスク金利にリスクに応じた要求分のリスクプレミアムを足したものと考える方法です。
この方法を使用すると株のDFを求めるには、株のリスク度合いに応じたリスクプレミアムを求めることが必要だとわかるかと思います。この推定の方法は様々考案されており、CAPM(Capital Asset Pricing Model)やAPT(Arbitrage Pricing Theory)等があります。
(例えば以下のブログではCAPMを詳しく説明してくれています)
ただ実際のところ、である配当の将来予想のずれの方が価格に与える影響が大きく、あまり
の精密化は株に限っては影響は軽微です。しかも、配当は企業業績の将来にわたる予想やその中で実際いくら配当するのか等予測するが難しいことからも、株の価格をモデル化して求めるのは非常に困難な分野です。
②債券のモデル
今回は一番基本的な債券の形である固定利付債、なおかつ発行体にはデフォルトリスクのないパターンを考えてみましょう。この債券に発生するは期中に発生する「クーポン」と満期の「元本」です。このクーポン
の支払が
で発生し、
を満期、
を元本の金額、ディスカウントファクターを
とすると価格
は下記のように書けます。
$$ P = \displaystyle\Sigma_{i=1}^{n}C(t_i) \cdot DF(t_i)+N \cdot DF(t_n) $$ |
固定利付債で先ほどは考えましたが、変動利付債になればクーポンはイールドカーブからフォワードレートと呼ばれるもので簡単に求まりますし、デフォルト有の企業のものであるとクーポン
を確率変数とみなして、期待値計算から「デフォルト確率×デフォルト時の債券回収金額」と「(1-デフォルト確率)×クーポンや元本」のように求めればいいです。
③デリバティブのモデル
まずデリバティブの中でも商品性としては簡単なスワップ、中でも固定金利と変動金利の交換であるものをみてみましょう。としては変動金利と固定金利の差が受払されます。この固定金利
と変動金利
の交換が
で発生し、
を満期、
を元本の金額、ディスカウントファクターを
とすると価格
は下記のように書けます。(固定金利受けの場合を考えております)
$$ P = \displaystyle\Sigma_{i=1}^{n}(R-F(t_i)) \cdot N \cdot DF(t_i) $$ |
次にオプションを見てみます。オプションは他の資産の価格に応じてが変化するものです。なのでこの参照する他の資産価格を
、
を現時点、
を満期、ディスカウントファクターを
とすると価格
は下記のように書けます。注意すべき点は、最もシンプルなヨーロピアンオプションを想定しているため、満期にしか
は発生しないのでDCFの∑がないこと、
が他の資産価格を参照していることから確率変数となるため期待値をとっている点です。
$$ P(X_{t_0}) = E[CF(X_{t_n}) \cdot DF(t_n)] $$ |
この式で難しいのは前述の通りが他の資産価格を参照しているところであり、
の形も非線形であったりするところです。今回の例のようにヨーロピアンオプションである場合はブラックショールズ式というもので解析的に解けますが、解けないものも多々あり数値計算で期待値を求めたりします。
以上でざっと触れた通り、金融商品の価格は全てDCF法を基に計算されるということがわかると思います。もちろん他のアプローチもありますが、この考え方が最も直感的で色んな金融商品に適用できるので、これが使えると金融商品の本質的な理解が進むと思います。
金融商品の価格とリスクの関係
最後に金融商品の価格とリスクの関係をDCF法を基に理解していきます。リスクの要因となるものをリスクファクターといい、例えば債券だと20Y国債金利とか、株だと日経平均株価(個別の株でも日経平均株価の上下に引っ張られる部分があるため)が挙げられます。このリスクファクターをと記載するとして、仮にある金融商品の
が下記のように表されたとします。
$$ 10+3F_1-F_2 $$ |
$$ P= DF \cdot (10+3F_1-2F_2) = 10+3F_1-F_2 $$ |
なので、リスクファクターが上がる(下がる)と価格は上がり(下がり)、リスクファクター
が上がる(下がる)と価格は下がる(上がる)ようなファクターであるといえます。このように
や
を関数としてリスクファクターを作用させてモデル化することがリスクを把握することの第一歩です。
価格のブレ方を把握することが金融商品のリスクについて理解をすることと言えますが、この例からわかる通り、もう少しブレイクダウンして想定するリスクファクターがや
にどう影響するのかを見極めることが本質的であるといえるかと思います。
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