金融データの一つにクレジットスプレッドがあります。例えば、CDSという商品は特定の参照組織(企業)のクレジットリスクをヘッジするためのものであり、CDSスプレッドを見れば参照企業のクレジットリスクがわかります。
しかし、クレジットスプレッドのデータ(例えば5Yで20bpというデータが得られたとしても)のままでは、どのくらいのクレジットリスクか感覚的にはわからないと思います。でも、クレジットリスクの度合いとして参照企業の倒産確率が5Yで10%といえば直感的に理解できるでしょう。
上記のようにマーケットでクオートされているクレジットスプレッドから倒産確率を求める方法があると便利です。本記事ではクレジットスプレッドからその参照企業の倒産確率がどのくらいあるかを簡易的に計算する方法を考えてみます。
モデリング
クレジットスプレッドと倒産確率を繋げて概算することが目的であるので、比較的簡単なモデリングを考えてみます。
ある企業が発行するT年満期の割引債を考えてみます。この割引債の評価方法は2種類考えることができ、①分子のキャッシュフローにリスクを反映させて期待値を求めリスクフリーレートで割引く方法、②分子は確定的とみなし分母のリスクフリーレートにリスクを反映させてクレジットスプレッドを上乗せしてそれで割引く方法、が考えられます。
①の場合は、割引債価格をP、元本をN、倒産確率をDP、回収率をR、満期Tに対応するゼロレートをrとすると、下記の通りに価格を求めることができます。
$$ P=\frac{N((1-DP)+R \cdot DP)}{e^{rT}} $$ |
$$ P=\frac{N}{e^{(r+sp)T}} $$ |
$$ \frac{N((1-DP)+R \cdot DP)}{e^{rT}}=\frac{N}{e^{(r+sp)T}} $$ |
そしてこの式をDPについて解くと、下記の通り倒産確率DPはクレジットスプレッドspで表せることがわかります。
$$ DP=\frac{1-e^{-sp \cdot T}}{1-R} $$ |
実際の試算
QUICK社により2020年5月26日から日本円ターム物リスク・フリー・レート(以下、RFR)が開示になっております。もともと市場金利として幅広く使用されていたLIBORに関して不正事件があり、代替金利としてのRFRが模索されたきましたがようやく固まりつつあるといった形です。
また、LIBORは AA/A 格の銀行への貸出金利を参照しているため、 AA/A 格の銀行へのクレジットリスクが反映されていると考えられます。これに対しRFRはO/N複利であるので実質リスク・フリーとしてみなされることになります。つまり、LIBOR-RFRの金利スプレッドを考えると AA/A 格の銀行のクレジットリスクがImplyされているといえます。
上記より今回は日本金利の標準テナーである6mのLIBORとRFRのデータを使用してモデリングのところで作成したモデルにより倒産確率を求めてみます。なお、RFRは前述の通りQUICK社より取得し、LIBORはglobal-rates.comより取得しております(期間は両方とも2020/1/6~2020/7/3)。
まずこれら2つをグラフ化したのが下記です。
想定通りLIBORの方がクレジットリスクを含んでいるため、RFRよりも高い金利になっていることがわかります。また、このリスクを含んでいない分、RFRはLIBORよりも安定した動きになっていることもわかります。なお、3月ごろのこれらの金利は大幅な金融緩和期待により大きく下落してました。
では、いよいよモデルにデータを入れていきます。スプレッドはLIBOR-RFRで求め、満期Tを標準テナーである6カ月(年換算なので数値は0.5)とします。問題は回収率ですが、そもそも倒産が起きて実現しないとわからないパラメータであるため、これもモデルを使用して推定を行わないとわかりません。今回は簡便のため、シニアのCDSにおけるマーケットクオートである0.35を使用しております。その結果が下記のグラフになります。
やはり、緊急事態宣言の後の4月以降に倒産確率が増えていることがわかります。これは貸出をメインとしている銀行であるので、当然不良債権が増えてしまうという見込みから倒産する可能性が高くなっている、という市場予想がクレジットスプレッドに織り込まれていると考えられます。
問題は0.01%~0.08%ぐらいのレンジで推移している倒産確率は妥当なものか?という点です。この値は6カ月ですので、期間構造を無視してざっくり2倍により年率換算すると、0.02%~0.16%になります。ここで下記リンクのJCRの格付けごとの倒産確率を見ると、1年ではAA:0.13%、A:0.21%となっています。回収率をざっくり見積もったことや、モデルを簡易化したこと、参照期間がコロナ下という特殊な期間であったことを踏まえると十分に近い値が得られていることがわかると思います。
まとめ
この記事ではクレジットスプレッドから倒産確率をざっくり求めるための数式の導出およびその数式を用いた簡単な算出例を紹介しました。簡易計算するには十分な数式であることが分かったかと思いますので、ぜひ活用いただければと思います。
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