金融の重要な概念に「リスク」というものがあります。今回はリスクの一つのなかの「金利リスク」を理解して概算できるようになるを目的としております。この理解を深めることは金融で働く人だけではなく、一般の投資家にとっても合理的な行動選択やポートフォリオの管理において重要なものとなります。
リスクって何?
まず、リスクという言葉についてお話ししたいと思います。一般的にリスクとは感覚的に危険なものと考える人が多いでしょう。それは金融の世界でも一緒ですが、「不確実性」と「リスク」という言葉でこの危険さを分けて定義しております。
不確実性というのは、どのくらいの確度や確率でその危険な事象が起きるかわからないものを指す言葉として使われております。例えば、トランプ大統領がツイッターで株価に大きなインパクトがある発言をすることなどは予めこれ見積もるのは難しいでしょう。もちろん、ただ起きるのを待っているのではなく、前日のスケジュールや会議等の内容から予測することはできる部分もあると思います。
一方で、リスクというのはその逆で、どのくらいの確度や確率でその危険な事象が起きるか見積もれるものを指す言葉として使われております。これは主に統計学や確率論によって見積もられるものであり、例えばサイコロを転がして1の目がでるのは1/6(サイコロに歪みがなければですが。。。)とわかります。リスクという観点でいえば危険な要素がなければリスクとは言わないので、サイコロの目が2~5ならば100円貰える、1ならば-100円払うという条件を付けてやれば、1がでることがリスクだといえるでしょう。
当然、上記の例にあるようなサイコロを例に挙げても、1がでる確率なんてわからない人には不確実性(実質論としては分布が定まるのでリスクですが)に見えます。なので人によって同じ事象であったも不確実性に分類するのかリスクに分類するのかは異なります。ただ、不確実性を不確実なまま放っておくのではなく、ある程度見積もってリスクとして認識することで安心感が得られるかと思います。金融商品においても損失を負うことがリスクと考えられますので、統計学・確率論・金融工学等を使ってリスク計量の高度化が金融分野でも行われております。
金利リスクって何?
国債や住宅ローンなど「金利」にまつわる金融商品については金利リスクが存在します。金利リスクを簡単に一言でいうと、金利の動向によって金融商品の損失を招くリスクといえます。
ここで例として、残存期間1.5年、クーポン2%、額面100円の国債を考えると、半年毎の利払なので、下記のように半年後に2%/2×100=1円、1年後に2%/2×100=1円、1.5年後に2%/2×100+100=101円という受取キャッシュフローが発生します。
この時の市場金利を2%とします(実はこの時の時価は100円となります)。この場合金利がどうなることがリスクと考えられるでしょうか?これは簡単で2%よりも大きくなることがリスクです。何故ならば、市場の金利が3%となったと仮定すると、他の国債を買えば3%の金利がもらえるのに対してこの国債を持ってても2%の金利しかもらえない商品となるので、需要が下がり価格が値下がりするからです。逆に金利は需要が上がり値上がりするのでリスクとは言いません。すなわち、この国債の場合は金利が上がることがリスクとなります。
次に住宅ローンを借りている場合を考えます。国債の場合は資産として保有し金利をもらう側でしたが、住宅ローンは負債であり金利を支払うことになります。これも前例の国債と似せた条件で考えます。残存期間1.5年、金利2%、額面100円の住宅ローンを考え、簡単のため半年毎の金利返済(毎月がデフォかと思いますが)とすると、図は省略しますが同様に半年後に2%/2×100=1円、1年後に2%/2×100=1円、1.5年後に2%/2×100+100=101円という「支払」キャッシュフローが発生します。
この場合金利がどうなることがリスクでしょうか?この場合は逆に金利が2%より下がることがリスクとなります。何故ならば、金利が下がると下がった金利で借りたほうが安いコストでお金を借りれることができるので、現状の2%で借りていることが損になるからです。つまり、この住宅ローンの場合は金利が下がることがリスクとなります
このようにお金を運用している場合かお金を借りている場合かで、金利が上昇するのか下落するのかどちらがリスクなのかは異なります(金融商品によってはリバースフローター等金利が逆に連動するものもありますので注意が必要です)。金利商品にはこのような性質があることを踏まえたうえで管理・運用していく必要があります。
金利リスクの概算方法
ではこの金利リスクを金額として見積もる方法はあるのでしょうか?そうです、リスクというからには最初に説明した通り方法が既に確立されたものです。金融工学的なアプローチが入りますので、数式が苦手な方は結果だけを確認して使えるようになって頂ければと思います。
DCF法により金融商品を評価するとし、CF(t)を1年ごとにt時点で発生するCF、rを金利(厳密に定義しないが国債ならば最終利回りと認識しておけば問題ない)とすると時価は下記の通り与えられます。
$$ P=\sum_{t=1}^{T} CF(t) \times \frac{1}{(1+r)^{t}} $$ |
ここで国債のような債券や住宅ローンのように残存期間Tで元本N、期中に金利c×NのCFが発生するものとすると、下記のように書き換えられます。
$$ P=\sum_{t=1}^{T} cN \times \frac{1}{(1+r)^{t}}+N \times \frac{1}{(1+r)^{T}} $$ |
さらにcNはNよりも十分小さいと仮定して0と置くことにより下記のようになります。
$$ P=N \times \frac{1}{(1+r)^{T}} $$ |
今までの議論より金利リスクとは金利の変動による金融商品の価格変動による損失なので、この数式をr、すなわち金利で微分してやることにより、
$$ \frac{∂P}{∂r}=-T \times N \times \frac{1}{(1+r)^{T-1}} $$ |
が得られ、さらに分数の項はDiscountFactorであり1として近似できるとすると、下記のようになります。
$$ \frac{∂P}{∂r}=-T \times N $$ |
すなわち、金利リスクは「-残存期間×元本」として定式化されるということです。ただし、これは金利が微小動いたときであるのでシミュレートするには金利の変動幅をかけてあげる必要があります。
例として、上の例でも使用した国債を考えてみます。再度記載すると、残存期間1.5年、クーポン2%、額面100円の国債です。つまり、
$$ \frac{∂P}{∂r}=-T \times N=-残存期間 \times 元本=-1.5 \times 100円 $$ |
となります。この時、金利が2%から3%に上昇した場合はどのようになるかというと、これに3%-2%=1%をかければいいのです。
$$ \frac{∂P}{∂r} \times 1\%=-1.5 \times 100 \times 1\%=-1.5円 $$ |
よって、2%から3%へ金利が上昇することで価格は1.5円下落し100-1.5=98.5円になるものと見積もることができます。このように厳密な値ではないが、国債や住宅ローンのときの例で考えた「リスク」というものが顕著化した場合の価格への影響を概算で算出することができます。このように国債やローン等のシンプルな金利商品は、「-残存期間×元本×金利の変化幅」で金利リスクを概算することができるので、今後の自分の資産・負債に潜むリスクを確認するための手段として使用してほしいです。ただし、算出過程にある通り、金利が大きい場合には精度が落ちるので注意が必要です。
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