レバレッジブル・ベア投資信託

金融分析

投資信託の一つに「SBI 日本株4.3ブル」「楽天日本株3.8倍ベア」のようないわゆるレバレッジブル・ベアという商品があります。今回はこの商品を簡単な金融工学や統計学の観点から分析を行います。レバレッジブル・ベアをオススメしているということではなく、この商品のリスクや商品性の理解を進めて欲しいという目的ですのでご理解いただければと思います。

レバレッジブル・ベアってどんな商品?

例えば「SBI 日本株4.3ブル」を検索すると「わが国の公社債に投資するとともに、株価指数先物取引を積極的に活用し、日々の基準価額の値動きがわが国の株式市場全体の値動きの概ね4.3倍程度となる投資成果を目指して運用を行う。」と運用方針が掲げられております。わが国の株式市場全体は日経平均が代理変数として考えられますので、この商品の値動きは日経平均の4.3倍程度の値動きとなるということです(どの程度連動するかは後程分析を行っております)。
ここで一つ疑問が浮かぶと思います。「値動きの4.3倍」とはどういうことでしょうか?ここが本記事の主なテーマとなります。

価格のモデル化

まず日経平均の変動をモデル化はどのようにしたらいいでしょうか?実は前に本ブログで紹介したブラックショールズ式の基となっている対数正規の確率過程が一般的なものとして挙げられます。

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またこの式は伊藤のレンマを使用すれば簡単に解けて(結果を中心に見て欲しいので説明は割愛します)、下記のように解けます。

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この式は日経平均Sの対数収益率が時間とともにどのように変動していくかを表したものです。μdtはいわゆるトレンド項であり、当初からある地点tまでの対数収益率がある一定の割合μで時間とともに単調的に変動(μが+の場合は増加・μが-の場合は減少)していくものを表したものです。
次にσdWはいわゆるブラウン項であり、平均0、標準偏差σ(このσをボラティリティと呼ぶ)で確率的に変動するものです。ギザギザに変動しているものを思い浮かべてもらえればと思います。
これを使って次項ではレバレッジブル・ベアを分析していきます。

レバレッジブル・ベアの分析

ここではベアはブルと逆に考えれば良いので説明を割愛し、レバレッジも最初の例で説明した4.3倍に固定して考えたいと思います。
4.3倍ブルは「日経平均の日次収益率の4.3倍の値動きをするもの」としてモデル化できると考えられるので、上記の日経平均モデルを使用すれば下記の通り数式化できます。

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この式でまずわかることは、レバレッジ商品に対して一般的に聞かれる「長期的に保有していたら損するのではないか?」という質問に対する回答です。何故このようなことが発生するかというと、実はもうすでに答えはでております。そう、「-1/2σ2」が作用しているからです。これが4.3倍になることにより、より大きく作用しているということです。更にこのマイナス項はボラティリティが大きくなればより大きく寄与する性質があることを理解しておく必要があるでしょう。
では時間がたつにつれ必ず損をするかというとそうではありません。μ>1/2
σ2であれば(・)の中は正になるので、4.3倍の恩恵も受けて日経平均よりもより大きなトレンドになるのです。ただし、μ<1/2*σ2の場合は日経平均よりもより大きく減少していきます。
この分析からわかることは、変動に対して上昇トレンドが大きいと見込まれる場合にレバレッジブルは買うべきであるということ、それ以外の場合(横ばいや下降トレンドの場合)は買ってはいけないということです。更にトレンドの転換期やレバレッジ投信に係る信託手数料等のコストを加味すると、上記の期待が見込まれるときになるべく短期での投資をすることがよいかと思います。

日経平均の連動性について

さて上記では日経平均の変動を対数正規分布で仮定し、4.3倍ブルがその日経平均の4.3倍の変動になると仮定しました。4.3倍ブルは「わが国の公社債に投資するとともに、株価指数先物取引を積極的に活用し、日々の基準価額の値動きがわが国の株式市場全体の値動きの概ね4.3倍程度となる投資成果を目指して運用を行う。」商品ですので、果たして日経平均の4.3倍になっているかは不透明な部分が残ります。
そこで簡単な単回帰分析を行うことで確認をしたいと思います。被説明変数を4.3倍ブルの対数収益率、説明変数を日経平均の対数収益率として回帰分析を行いました。なお、本来時系列データは残差に自己相関がないことを仮定する必要がありますが、対数正規の確率過程でモデル化されていることを前提にしてますので、ここは無視して分析を行っております。また、時系列データは2017/12/19~2020/6/9のものを使用しております
まず、それぞれの対数収益率を時系列グラフにしたものが下記です。

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比較的同じ形状をしており、連動しているように見えます。また、左端の数値を見ると4.3倍ブルは約-0.2~0.2のレンジ、日経平均は約-0.05~0.05のレンジになっており、約4倍になっていることが見て取れます。すなわち、大まかには4.3倍ブルがその日経平均の4.3倍の変動になると仮定したことは誤りでないということがわかります。
次に実際に回帰分析を行うために散布図を確認します。

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当然ながら連動した運用を目指してはいますが、指数そのものではないのでズレが生じる部分があります。なので外れ値があるのは見受けられますが、概ね直線で近似できることがわかります。
最後に回帰分析によって得られた直線の式は下記の通りです。

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4.3倍になると予想していましたが4.411倍(なおt値は75と有意な値)になりました。これは市場の動向やファンドマネージャーの力量等が関係しているので、期間によってはもう少し4.3倍に近くなる場合もありますが、このくらい誤差はあることを承知しておく必要はあるということです。また、自由度調整済決定係数は0.9であるので9割方説明できるようになっており、この分析から4.3倍ブルの変動を日経平均の変動でモデル化するのは妥当だということが言えます。

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データ分析やモデル等の仕事をしてる人々。週に1回程度のペースで金融や統計に関する記事を更新しています。
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